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雑誌創刊のことば

ローマ教皇から寄贈されたカリスとパテナ

ローマ教皇から寄贈されたカリスとパテナ

理事長 故・明石 嘉聞

20世紀は「教育の世紀」といわれている。1970年を「教育の年」と呼び、世界的行事が催されたことも、その1つの現われである。このように、今や世界は教育を基点として動きつつある。しかし、その反面、冷厳な科学万能の風潮に押し流され、「専門馬鹿」となり、マモンの前に跪坐するエコノミック・アニマルとなり、人間を忘れた公害先進国の汚名を、わが国は着せられてしまった。この傾向は、医学界もみられ、まことに痛感の極みである。医学は人体を対象とする学問ではあるが、同時に人格体としての人間、神の似姿として造られた人間全体を対象とする学問である。人体は治療し得ても、人間そのものを癒すことができないとするなら、それは真の意味において医学とはいえない。したがって、医師たるものが、人間性を忘却し、また、自ら人間性を喪失するならば、医師はむしろこの世に地獄をもたらす者となることは必定である。医師は、人間そのものに対して重大な責任を負うものである。

私はここに想いを致し、キリスト教的人類愛に根ざす生命の尊厳と、人間社会への奉仕とを目的とする聖マリアンナ会を母体として、学校法人東洋医科大学の創立に専念し、関係各方面の絶大なご協力とご援助とを得て、昭和46年4月、開学の運びをみるに至った。

しかし、この開学の精神と目的とを達成し完遂するためには、科学としての医学の研鑽を怠ってはならないことは論を俟つまでもない。先に教養部より「東洋医科大学紀要」(一般教育)が発行されたのも、今回、専門課程より「東洋医科大学雑誌」が上梓されるのも、その現われである。わけても、わが国の学制施行100年、教育基本法実施25年に、教養・専門の両課程におて、その研究成果を発表するに到ったことは、誠に意義深く、喜びに堪えない次第である。収める内容は、優秀な学究の筆になるものであるが、今後は更に、学問に対する真摯な態度と情熱とももって、専門分野の質的向上を図り、世界の趨勢に後れをとらぬばかりか、世界の医学界を先導する高さと深さと広さを増し加えることを、喪心より期待する次第である。

以上、簡単ながら、開学の理念を述べ、各位の奮起を冀って、創刊のことばとする。

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